　ここは　「万葉集一人旅コーナー」です

万葉集は古今集仮名序が記すように「人の心を種として、よろずの人の言の葉とぞなれりける」倭歌を４５１６首（公称）も収録した、魅力的な歌集であることは万人が認めるところです。
当時の最高の学問を身につけた天皇、皇族、貴族はもちろん、それに劣らず、あらゆる階層の人たち（防人、その妻、そして遊行女婦（うかれめ）等）の歌が収録され、内容も「万葉集」の名にふさわしいとますます感銘を深くしています。
万葉集という名称は最初から名づけられていたわけではありません、国撰の「古今和歌集」には見られます。「万葉」とは万世あるいは万代の意で付けられたようですが、古今集仮名序が指摘するように「よろずの人の言の葉の歌集」という意味が相応しいように思います。中心的編集者だった大伴家持の気持ちを推察すると、まだ倭歌の普及に視点があるように思えるからです。
その大伴家持が因幡守として詠んだ、万葉集最後の４５１６番の歌は天平宝字３年（７５９）正月の日付がありますから、すべての歌は１２５０年以上も前の歌ということになります。そんな時代に出身、身分、学問、男女の差ではなく、倭歌という一点において、万葉集を収集していった万葉集編者たちの信念と倭歌にかけた情熱を感じるのです。
万葉集の巻頭歌は雄略天皇の歌、二番目の歌が、舒明天皇の歌ですから官撰和歌集とされたことがありますが、ここでは全く違った見方をしています。雄略天皇は、日本国を「蜻蛉島（あきつしま）」と初めて称し、「そらみつ　大和の国」を定めた天皇です。万葉集編者たちは、権威を強調するためではなく、これから、漢詩ではなく「日本の歌」とし「倭歌」を、身分を超えて、詠もうという宣言と私は考えています。巻頭歌に雄略天皇の歌が配列された理由の考察は「新作万葉集物語、第一話」に言及しています。公開していますので、クリックしてみていただければ幸いです。
万葉集に対するもっと重要な視点は、漢詩から倭歌への大きな文化的転換期を経ているということです。万葉集の極初期の歌人たちは、倭歌を漢字で表記しなければならなかったのですが、万葉集中期頃から万葉仮名として漢字の訓読みを完成していくのです。
古事記と日本書紀（記紀）の倭歌に使用された漢字仮名（仮称）と万葉仮名とはかなり異なるのは留意すべきです。記紀が国家的事業に対して、万葉集は国民的視点からの事業というべきでしょうか。庶民を巻き込んだ文化大革命ともいうべき大きな熱情が生まれていくのに倭歌（万葉集歌はその象徴）が果たした役割は非常に大きいのです。
そんな万葉集の魅力に引きひきつけられて、記紀の勉強を入れると１５年間続けてきた成果（研究と主張したいのですが・・）を、ここで公開したいと願い、ホームページを立ち上げました。
この勉強の結果を要約すれば、これまでの万葉集歌の鑑賞の仕方とは異なり、万葉集歌を歴史的視点で眺めたことです。万葉集歌に日付がつけられた歌があることに注目しました。柿本人麻呂自作歌およびその歌集の歌は合計、約４５０首が収録されていますが、ただ一首（巻１０・２０３３番）を除いて日付がつけられていません。これが倭歌の記録の仕方だったのでしょう。ところが、万葉集の歌の中には、作者名、官職・位階、状況それに日付が付記された歌が沢山あります。万葉集編者たちが編纂の過程で記録したのが大半ですが、例えば編纂の主たる人物である大伴家持の歌には、自分で記録を残しています。いつ、どんな状況で詠んだのかが分かります。作者の中には、国史に登場する人たちも大勢います。万葉集を歴史書として見ることは可能なのです。こうした記録方式は誰が始めたのでしょうか？　日本書紀の顕在的影響はありません。まだ仮定の段階ですが、類聚歌林を著した山上憶良に始まり、大伴坂上郎女たちに継承されたのではないかと考えています。その根拠の一つは、第五巻は大伴旅人と山上憶良の歌集といっても過言ではありませんが、詠まれた日付、作者名が記されています。大伴家持はその記録方式を継承したと想定しています。
私の成果はまさしく、記紀や続日本紀と対応させながら万葉集を解釈したことが大きな特徴になっています。
いつかは、製本にしたいと願っていますが、まずは皆様のご批評を受けたいと考え、ホームページに開示しました。少しでも興味をもって、ご意見をいただけたら、これほどうれしいことはありません。

タイムスリップして
万葉集のある時代の舞台を想像してみましょう

右の写真は大宰府政庁跡です。ここに高く、広大な建物が立っていたことを想像してみてください。
万葉集に関する大宰府には、大伴旅人が大宰帥として赴任し、山上憶良、僧満誓（笠麻呂）、小野老等によって壮大な筑紫歌壇が形成されました。そこには大伴旅人の妻が亡くなった時に、幼い大伴家持を連れて下向した大伴坂上郎女が加わり、この歌壇の成果は万葉集・第五巻に集約されました。大宰帥・大伴旅人のことは続日本紀には全く記録されていませんが、第五巻に、国史以上に克明に記録が残されました。
万葉集の最終編纂にキッカケを作ったと考えている大伴旅人のことは「大伴旅人の生涯（上、下）」（未公開）にまとめました。第五巻は大伴旅人と山上憶良の歌集といっても過言ではありませんが、万葉仮名で記され、ほぼ歌の詠まれた時期が辿れます。
そう考えると、第五巻は大伴坂上郎女が監修したと考えざるを得ません。大伴家持は十歳から十三歳までの約四年間、大宰府に滞在しますが、この時の鮮烈な記憶と、大伴坂上郎女の支えによって、大伴家持は万葉集の最終編纂の偉業を達成したと考えています。それに、大宰府は、大伴家持を中心にした「万葉集最終編纂」の場所になったと想定しました。
大伴家持が薩摩守を辞任してから、約二年間の空白期間に準備が本格化し、その後の三年間の大宰少弐の時代に万葉集が仕上げられたと。そこには大原今城たちの協力があったと想定しています（「大伴家持と万葉集の最終編纂：原万葉集の完成」（未公開）にまとめています。

左の写真は平城京遷都１３００周年を記念して再建された「大極殿」です。万葉集全時代の後半の天皇を中心とした政治・行政の中心的建物です。十三首の歌が収録されている聖武天皇の時代に限れば、当時の大極殿は平城京から恭仁京に移し替えられ、再び平城京に戻って、再建されました。正確に言えば、写真の大極殿は恭仁京移設前の大極殿として再建されました。当時、再び恭仁京から移設された大極殿は少し小規模に再建され、建てられた位置も移設前の大極殿よりも南側にずれていることも明らかにされています。
万葉集の最終編纂の中心人物だった大伴家持は、橘諸兄が左大臣として仕えていた聖武天皇が存命中に万葉集を献上したかったのかもしれません。しかし、それは果せず、「橘奈良麻呂の変」に巻き込まれていくのです。そして聖武天皇の崩御後二年半後、橘諸兄が亡くなって、更にその二年後に大伴家持は万葉集歌の収集および作歌を終止するのです。その後,再び「藤原仲麻呂の変」が発生しますが、その変が起こる前に薩摩守に任じられたのは、大伴家持の希望だったのではないかと考えています。万葉集を完成させたいという強い願いからと。
最終編纂された完本、「原万葉集」（写本万葉集と区別）が献上されたのは志貴親王の皇子の白壁王が光仁天皇（皇太子は後の桓武天皇）に即位された宝亀元年頃と想定しました。

以下に、１５年間に仕上げた勉強結果を表に示します。
著作権侵害に留意し、以下の著作については著作権を留保します。
できるだけ、公開したいのですが、準備しながら、逐次公開する予定です。
願わくは、いくつかの公開資料（クリックすれば表示されます）を読んでいただければ、幸いです。ご意見、ご批判を歓迎します。

今回公開した資料は下記の５件です。
（１）万葉集第一巻（訓読み、原歌）
（２）大伴家持と政治家との関係（表）
（３）万葉集の頭歌（雄略天皇）と第二首目の歌（舒明天皇）との関係
（４）山部赤人の富士山の歌
（５）不破内親王の生涯

追加資料その１　
奈良時代の相摸国国守・介

その他に、未公開資料でも関心のある資料があれば、ご相談ください。ご要望に沿って一部をお送りします。その場合には、申し訳ありませんが、一部有償になります。相談させてください。
連絡先：hiros.kobayasi@nifty.com

注）この著作・資料一覧表の後に、自己流ですが、万葉集に関して、最後尾に「話題提供コーナー」を設けました。最後尾の題名をクリックすると閲覧できるようになっています。

第一部：話題提供
第一回：魚の「鮎」の話。
第二回：「ツユクサ」の話。
第三回：「ムササビと大伴坂上郎女」の話

第二部：万葉歌碑訪問記
第一回：「鹿島神社、防人・大舎人千文の歌」